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東京地方裁判所 平成7年(ワ)15893号 判決 1996年3月13日

原告

小田キミ子

被告

平田雅行

主文

一  被告は、原告に対し、金四五三二万〇二七二円及びこれに対する平成七年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金七三七三万〇二八一円及びこれに対する平成七年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要(当事者間に争いがない)

一  本件事故の発生

1  事故日時 平成五年二月三日

2  事故現場 東京都葛飾区奥戸一―二八号先交差点(以下「本件道路」という。)

3  被告車 自動二輪車

運転者 被告

所有車 被告

4  事故態様 原告車ママが、本件道路を横断中、被告運転の被告車が原告と衝突した。

二  責任原因

被告は、被告車を所有して、運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により、原告に生じた損害を賠償する義務がある。

第三損害額の算定

一  原告の損害

1  将来の治療費及び入院雑費の必要性

(一) 原告は、平成六年七月末日までの治療費は、被告から支払い済みであるとして本訴においては請求していない。原告は、平成六年八月一日から平成七年七月末日までの原告が既に病院に対して支払つた治療費と同年八月一日以降の将来の治療費、平成六年二月三日から平成七年七月末日までの入院雑費と同年八月一日以降の将来の入院雑費を請求しており、被告は、将来の治療費及び入院雑費について、必要性を争つている。

(二) 本件事故によつて、原告が、頭部外傷(急性硬膜下血腫、脳挫傷)、胸部外傷(左多発肋骨骨折、血胸)、腹部外傷(腹腔内出血、脾臓破裂)、右足関節部骨折、左第三中趾骨骨折の傷害を負つたこと、原告は、治療を受けたが、意識レベルの改善が見られず、遷延性意識障害を残し、植物人間状態となつたことは、当事者間に争いがない。なお、原告は、症状固定時期を都立墨東病院から医療法人慈英会病院(以下「慈英会病院」という。)に転院した平成五年八月二四日と主張しているが、甲二、三及び六によれば、症状固定日は平成五年八月一七日と認めるのが相当である。

被告は、将来の治療費及び入院雑費は不必要であると主張しているが、甲二、三及び六によれば、原告は、右症状固定後も、生命維持のために保存的治療が必要であり、今後とも、生存期間中、継続的に同様の治療を受け続ける必要があることが認められるので、被告は症状固定後の将来にわたる右治療に要する費用も賠償する義務を負うと認められる。

2  治療費 一〇〇五万二一八〇円

(一) 平成六年八月一日から平成七年七月末日までの治療費 一〇二万六〇二〇円

甲四の一ないし九、一〇の一ないし七、一一の一ないし四によれば、原告は、本件事故による受傷のため、医療法人慈英会病院(以下「慈英会病院」という。)に入院して治療を受け、その治療費として平成六年八月一日から平成七年七月末日までの間に一〇二万六〇二〇円を要したことが認められる。

(二) 平成七年八月一日以降の将来の治療費 九〇二万六一六〇円

甲五及び六によれば、平成七年八月一日以降の治療費は、おむつ等の入院雑費も含めて、一か月一三万円の年額一五六万円と認められる。

ところで、経験則上、植物状態になつた患者は、合併症等を併発し、通常人の平均余命よりも生存期間は短期間となると認められるところ、本件における原告の症状や年齢等を考慮すると、原告の生存期間は、口頭弁論終結時から平均余命の三分の一程度の期間と認めるのが相当である。本件では、原告は、口頭弁論終結時の平成八年一月一九日現在で六五歳の女性であり、その平均余命は二〇・九七歳と認められるので、原告の生存期間は口頭弁論終結時から約七年間と認めるのが相当である。したがつて、平成七年八月一日以降、将来にわたつて治療費が必要な期間も七年間と認めるのが相当である。

よつて、将来の治療費は、年額一五六万円に、七年間のライプニツツ係数五・七八六を乗じた九〇二万六一六〇円と認められる。

(三) 合計 一〇〇五万二一八〇円

3  入院雑費 一七一万〇三八〇円

(一) 経験則上、原告は、入院中、一日当たり一三〇〇円の入院雑費を要したことが認められる。

ところで、甲五によれば、原告が入院し、治療を受けている慈英会病院では、平成七年六月二一日より付添家政婦制度を廃止し、病院職員による介護を実施することになり、それにともない、これまで個人負担だつたおむつ等は慈英会病院からのリースとなつたところ、甲六によれば、右リースに要する費用は、前記の平成七年八月一日以降の月額一三万円の治療費中に含まれていることが認められること、原告は、IVH等の雑費として、右治療費以外に月額一万五〇〇〇円を要することが認められる。

したがつて、入院雑費は、平成六年二月三日から平成七年六月二〇日までの五〇三日間は一日当たり一三〇〇円、平成七年六月二一日以降は、月額一万五〇〇〇円の年額一八万円と認められる。

(二) 平成六年二月三日から平成七年七月三一日までの入院雑費 六六万八九〇〇円

一日当たり一三〇〇円に五〇三日を乗じた六五万三九〇〇円に、平成七年六月二一日以降同年七月三一日までの一か月間のIVH等の雑費一万五〇〇〇円を加えた六六万八九〇〇円と認められる。

(三) 平成七年八月一日以降の将来の入院雑費 一〇四万一四八〇円

前記のとおり、原告の生存期間は口頭弁論終結時から約七年間と認めるのが相当であるので、平成七年八月一日以降、将来にわたつて入院雑費が必要な期間も七年間と認めるのが相当である。したがつて、平成七年八月一日以降の将来の入院雑費は、年額一八万円に七年間のライプニツツ係数五・七八六を乗じた一〇四万一四八〇円と認められる。

(四) 合計 一七一万〇三八〇円

4  付添費用 二八六万四五三三円

甲二、五及び六によれば、原告は、平成六年八月一日から平成七年六月二〇日までの期間、付添看護が必要であつたが、甲七の一ないし三二によれば、その費用として合計二八六万四五三三円を要したことが認められる。

5  休業損害 九四万二七六〇円

甲八の一及び二によれば、原告は、本件事故の前年である平成四年に一七五万六〇〇〇円の収入を得ていたことが認められるので、原告の一日当たりの収入は四八一〇円となる。

原告は、本件事故の日である平成五年二月三日から症状が固定した平成五年八月一七日までの一九六日間休業したことが認められるので、休業損害は、一日当たりの収入四八一〇円に一九六日間を乗じた九四万二七六〇円となる。

6  逸失利益 一一四五万七八九九円

(一) 生存期間と認められる期間までの九年間の逸失利益 九九八万五三一八円

原告の収入が年間一七五万六〇〇〇円であることは前記認定のとおりであるので、右の年収一七五万六〇〇〇円に、生活費を二〇パーセント控除し、症状固定時の六三歳から口頭弁論終結後七年後の七二歳まで九年間のライプニツツ係数七・一〇八を乗じた額である金九九八万五三一八円となる(一円未満切り捨て、以下、同様)。

(二) その後の二年間の逸失利益 一四七万二五八一円

平成五年八月一七日の症状固定時に六三歳であつた原告は、平均余命の二分の一の期間稼動可能であつたと考えられるところ、症状固定時である平成五年の六三歳の女子の平均余命は二二・三〇歳であるので、原告は、症状固定後一一年間程度稼動可能であつたと認められる。ところが、本件事故で植物状態になり、生存期間が症状固定後九年間に短縮されたので、この生存期間が短縮されたことも本件事故によつて原告が失つた得べかりし利益と認められる。この間の逸失利益は、年収一七五万六〇〇〇円に、生活費を三〇パーセント控除し、一一年間のライプニツツ係数八・三〇六から、九年間のライプニツツ係数七・一〇八を減じた一・一九八を乗じた額である金一四七万二五八一円となる。

(三) 合計 一一四五万七八九九円

7  慰謝料 二四〇〇万円

後遺障害の程度、原告の年齢等、証拠上認められる諸事情に鑑みると、その慰謝料は二四〇〇万円が相当であると認められる。

8  合計 五一〇二万七七五二円

二  損害てん補 五七〇万七四八〇円

本件事故に基づいて、被告から合計一三二万三七六七円、健康保険から合計四三八万三七一三円の合計五七〇万七四八〇円が支払われたことは、当事者間に争いがない。

三  損害額合計 四五三二万〇二七二円

第四結論

以上のとおり、原告の請求は、被告に対して、金四五三二万〇二七二円及びこれらに対する本訴状送達の日の翌日である平成七年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 堺充廣)

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